東野圭吾作品の世界

東野圭吾著作の書籍からその世界観を独断と偏見で解釈します!

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「眠りの森」加賀恭一郎の恋

「眠りの森」は、加賀恭一郎シリーズの第2作品目である。第1作品目の「卒業」では、加賀は大学卒業後に教師になることになっているが、2作品目の「眠りの森」ではいきなり刑事として登場してくる。

 

「眠りの森」では、刑事になった加賀の恋心がクローズアップされ、それがこの小説に味を添えている。第1作品目の「卒業」でも、いきなり加賀の『君が好きだ。結婚して欲しいと思っている』というセリフではじまり、加賀が友人の相原紗都子に恋をしていることが分かるのだが、ここでの加賀の恋心は物語の重要な部分ではなかった。

しかし、「眠りの森」ではこの加賀の恋心が、この小説の読後感を左右する大きな要因ともなっている。しかもその相手は事件の渦中にあるバレエ団の一人。刑事という立場の加賀は、大学の時のようにその気持ちを相手に伝えることになるのでしょうか?

 

ここで、物語の内容を少し。

 

あるバレエ団の事務所に強盗が入り、たまたまそこに居合わせたバレリーナの葉瑠子が、その強盗を殺害してしまう。バレエ団のメンバーは正当防衛を主張するが、なぜ強盗があまり高価なものがないバレエ団の事務所に強盗に入ったのか、その理由が判明しないのでなかなか葉瑠子は警察から解放されない。

 

そんな最中に、バレエ団のバレエ・マスターであり、振付師であり、演出家でもある梶田が殺害される。同じバレエ団に起きた事件であることから、この2つの事件にはつながりがあるのではないかと警察は捜査を進めていく。すると、バレエ団とはまったく無関係だと思われていた強盗が、実はそうではないらしいことが判明していく。そして、次々と驚きの真相が明らかになっていく。

 

と、大体こんな感じの小説です。

 

加賀が恋心を抱くのは、強盗を殺害してしまった葉瑠子ではなく、その友人であり、同じバレリーナである美緒という女性の方である。そのことが、この物語のせつなさを更に醸しだすことになるのであるが・・・。加賀の最後の言葉がとても印象的で、その後がとても気になる結末を迎えることになります。

 

加賀恭一郎は、7作品目の「赤い指」でも『刑事は真相を解明すればいいというものではない』というセリフにも表れているように、その人間的な側面をみせていますが、この「眠りの森」でもそんな加賀刑事の側面が十分に表現されていたと思います。

眠りの森 (講談社文庫)

眠りの森 (講談社文庫)